「木材を燃えにくくする方法」安井昇の木造化・木質化と防耐火③

 木造化・木質化における防耐火設計とは、木材の延焼防止性能を活用する設計手法であると言い換えられます。防耐火規制に見合う性能を得る手段としては、以下の3つが考えられます。

A:木材を太くする
B:木材を燃えにくくする
C:木材を燃えにくい材料と組み合わせる

です。
 
 Aとは、燃えしろ設計を指します。燃えしろとは、燃焼すると想定される寸法を構造上必要な寸法に付加した部分のこと。木材を大断面化することで、火炎の燃え抜けを防止します。構造材(柱・梁)としては、無垢材・集成材ともに燃え代設計による準耐火構造(45分および1時間)が認められています[※1]

 ただし、燃えしろ設計による準耐火構造では、JAS構造材しか使用できません。戸建住宅などで一般的に使われる無垢の無等級材では燃えしろ設計が認められないため、製材の調達に関して注意が求められます。

JAS製材を用いた燃えしろ設計

柱と梁(無垢材)に45㎜の燃えしろを設けて45分準耐火構造を実現した「わらしべの里共同保所」設計:アトリエフルカワ一級建築士事務所写真:傍島利浩]。建物の用途・規模にもよるが、準耐火建築物にすれば内装制限を解除することが可能で、木の意匠を生かした内装が実現できる[※2]

 木材の大断面化を実現する応用的な手法としては、複数の木材どうしを接着剤やビスなどで一体化した合わせ柱や合わせ梁とする考え方も認められています[昭和62年建設省告示1901号・1902号]

構造材の組み合わせによる燃えしろ設計

十分な燃えしろを確保できない集成材を金物と接着剤によって組み合わせて燃えしろを確保する[※3]「ポラスフレームシステム」(ポラスグループ)で1時間準耐火構造を実現した「ポラス建築技術訓練校」(ポラスグループ)。105㎜角の集成材を9つ組み合せわることで、10mスパンも実現している

 集成材では、板の各層を互いに直交するように接着積層したCLT(Cross Laminated Timber)に大きな注目が集まっています。その大きな特徴は厚さ(燃えしろ)を生かした防耐火性能の高さ。

 「CLTは、標準的な工法がまだ確立されていないほか、価格が高価なため、汎用的な材料とはいえませんが、法改正によって1時間準耐火構造が可能になりました[平成27年国土交通省告示253号]。その性能を生かすのであれば、材料費が高騰している中小規模のRC造やS造の市場での採用増が期待できます」(安井氏)。

CLTによる燃えしろ設計

木造3階建ての「カネシロ新事務所」(事務所)。外壁は防火構造となっており、エレベーターシャフト部分の壁には、愛媛県産のヒノキ材(30㎜厚)を3層積層したCLTを仕上げ材として利用している[上]。剛性の高さもCLTの強み。建物内部では、2階の床に愛媛県産のスギ材(30㎜厚)を5層積層したCLTを使用して14mスパンを実現する一方、CLTを現しとして天井仕上げ材とした[右][設計:網野友哉アトリエ写真協力:愛媛県CLT普及協議会

※1 45分準耐火構造で規定される集成材の燃えしろ寸法は35㎜、無垢材は45㎜[平成12年建設省告示1358号]。1時間準耐火構造で規定される集成材の燃えしろ寸法は45㎜、無垢材は60㎜[平成27年国土交通省告示253号]
※2 保育所(児童福祉施設)では、準耐火建築物の場合、「その用途に供する2階の部分の床面積が300㎡以上」であれば内装制限の対象となる。この建物は、2階の床面積が45.54㎡であるため、内装制限の対象とならない。準耐火建築物(耐火建築物)でない場合は、建物全体の床面積が200㎡以上となるため、内装制限の対象となる[令128条の4第1項1号]
※3 燃えしろ設計では、木材その他の材料で防火上有効に被覆された部分については、燃えしろを設けなくてもよい、という解釈が認められている。合わせ柱・合わせ梁の場合は、外周部のみで燃えしろを確保すればよい[昭和62年建設省告示1901号・1902号]。「ポラスフレームシステム」では予備試験については無垢材で実施した

④につづく

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