「“火”に強い木の内外装」安井昇の木造化・木質化と防耐火④

木材を燃えにくくする

 B(木材を燃えにくくする)とは、木材に対してホウ酸やリン酸などの難燃化が可能な薬剤を加圧注入して、木材を不燃化する方法です。不燃成分の働きによって、木材への着火を防止できます。この手法であれば、内装制限の対象部位であっても、木材を仕上げ材として自由に使用可能です。

ホウ酸を主成分とする薬剤を加圧注入して不燃化した木材を、体育館の壁面に目透かし張りで仕上げた「福井県営体育館」。体育館は内装制限の対象外であるもの、イベントなどの目的で使用することを想定し、内装制限のかかかる集会場として確認申請を行っているため、壁仕上げ材として木材は使用できない。不燃木材には「不燃・準不燃木材」(小原木材使用している。福井県産材でグレードは準不燃

 ただし、不燃木材は割高であり、窓廻りなど湿気の多い場所では、薬剤が表面に表出して白い結晶となる白華現象が起きやすいのが悩みの種。結晶は簡単に除去できるものの、白華の度に、不燃性能が低下してしまうというリスクもはらみます。
 「外装材としては、防水・防腐という耐久性にも問題があるため、表面を保護する塗装技術や、薬剤の改良という技術的な課題をクリアする必要があると考えています」(安井氏)。

 

木材を燃えにくい材料と組み合わせる

 C(木材を燃えにくい材料と組み合わせる)とは、木材を石膏ボードや鉄、ガルバリウム鋼板などの不燃材料と組み合わせるという方法です。Bで紹介した不燃木材と同様に、内装仕上げ材として使用できる手法として代表的なのが、不燃材料である火山性ガラス質複層板「ダイライト」(大建工業)を下地として0.2㎜厚程度の突き板を表面に張るという方法。この場合、木材に着火防止・延焼防止を期待することはできませんが、下地で火炎の燃え拡がり・火炎の燃え抜けを防止できます。 

共同住宅(特殊建築物)は、条件によって内装制限の規制がかかる。リノベーションを行った「品川区Y邸」[※]では、火山性ガラス質複層板を下地として表面に0.2㎜厚の突き板を張り合わせた内装用の不燃木材「リアルパネル ナチュラルウッド ウォールナット」(ニッシンイクス)を使用して、リビング・ダイニング側の天井を木材仕上げとした[設計:カガミ建築計画]

 Cについては、外壁・屋根・床などの部位ごとに、仕上げ材(木材)と不燃材料の下地を組み合わせる方法も紹介しておきましょう。国土交通大臣認定を取得した構造を採用するか、告示(建築基準法)の仕様を採用するかに大別されます。前者は性能規定である一方、後者は仕様規定であり、より安全な材料構成が定められています。一般的に、国土交通大臣認定を取得した構造は、告示の仕様に比べて、スリムなデザインが実現できるものの、コストは割高な傾向があります。

 

a:板張り準耐火構造/JBN・全国工務店協会

内壁を石膏ボードの重ね張り(9.5+12.5㎜厚以上)とするだけで、外壁45分準耐火構造を実現している。外壁仕上げ材となる木材の厚さは15㎜厚以上でよく、施工性も良好。12㎜厚以上の構造用合板等は耐力壁でもある

b:火バリ/岐阜県木材協同組合連合会

30㎜厚の無垢材(岐阜県産のスギ・ヒノキ)と12㎜厚の強化石膏ボード(または9.5 +12.5㎜厚の石膏ボード重ね張り)によって外壁45分準耐火構造を実現。下見板張りが可能で、防火地域・準防火地域で伝統的な和のファサードをデザインできる

c:WOOD.ALC/日本WOOD.ALC協会

105㎜厚以上のスギ板(間伐材)を水平方向に接着剤で集積した集成材パネル「WOOD.ALC」による1時間準耐火構造(非耐力壁)。鉄骨造(梁)との取合いは、「WOOD.ALC」に先付けされた自重受け金物とL字形アングルをH形鋼のフランジに引っ掛けて、ラグスクリューボルトで固定するのみのシンプルな納まり

d:ZiG/タニタハウジングウェア


 

頂部を面取りした三角形のガルバリウム鋼板の波板「ZiG」(タニタハウジングウェア)を、防火構造が要求される妻面の外壁に張り付けた「堀切の家」[設計:桜設計集団/写真:川辺明伸]。色はタニマットブラックで、自然光による明暗のコントラストが強調されている(上)。告示仕様の防火構造[平成12年建設省告示1359号第1第1号ロ(2)(ⅶ)(ⅷ)]では、金属板の裏面に石膏ボードやロックウール保温板を張る必要があるものの、「ZiG」の認定防火構造ではそれらが不要で、コスト削減が可能

 

 告示に関しては、国土交通省建築基準整備促進事業おいて、新たな技術が相次いで告示化されています。以前に比べて技術の選択肢がかなり幅広くなっているので、その動向には注目しておきましょう。

※ RC造(耐火建築物)の場合は、その用途に供する3階以上の部分の床面積が合計1,000㎡の場合、内装制限の対象となる[建築基準法施行令128条の4第1項1号]

つづく

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