兵庫県立美術館の巨大な青りんご。その意味とは

兵庫県立美術館内にある「Ando Gallery」(2019年5月23日開設)に行ってきました。兵庫県立美術館がオープンしたのは2002年。安藤忠雄氏の設計です。Ando Gallery は、その展示棟とギャラリー棟の間に増築された第2展示棟(2018年9月完成)にあります。

ギャラリー棟海側の広場から展示棟を見る。写真左手の「海のデッキ」には大きな青りんごのオブジェが。

ガラスのカーテンウォールとコンクリートの大きな庇の組み合わせは、同時期にアメリカで竣工したフォートワース現代美術館にも見られる構成。

海に向かって突き出したコンクリートの庇は、間近で見ると迫力満点

第2展示棟は既存の展示棟とギャラリー棟の通路だったところに増築されました。鉄骨3階建てで、建築面積は87.82㎡、延床面積は614.74㎡。この増築部分の設計・施工の費用は安藤忠雄建築研究所が全額負担し、兵庫県に寄贈されたそうです。

写真左が展示棟、右がギャラリー棟で、中央がAndo Galleryのある第2展示棟

振り返ると…青りんごが見えます、笑

ちなみに上の写真の手前はコンクリートの螺旋階段。コンクリートの建物といえば四角くて堅牢で冷たいイメージがありますが、この建物では重たくなりがちな箱の部分はガラスとスチールで軽やかにつくられ、コンクリートは主に造形をともなう部分に使われています。素材の使い方を見れば、その建築家の愛がよく分かります。

ギャラリー内部は自然光にあふれた吹抜け空間。階段上から外を望めば、ガラスと鉄とコンクリートの建築の中に、鮮やかなアップルグリーンが浮かび上がります。このシュールな眺めに「なぜ、安藤忠雄はあの場所に青りんごを置いたのだろうか」と好奇心が掻き立てられます。

青りんごのオブジェが置かれている海のデッキには、Ando Galleryの3階から屋外通路に出て、たどり着くことができます。

ガラスと鉄骨に囲まれた無機質な通路をわくわくしながら進むと、ぱっと視界が開け、青空の下、海に差し出すように大きな青りんごが現れます。コンクリートと硝子の館内を歩き回った後に、このグリーンの瑞々しさを見て心を惹きつけられない人はいないでしょう。

安藤氏がデザインした青りんごは、直径2.5m。FPR(繊維強化プラスチック)でできている

この青りんごは、安藤氏のエネルギーそのものでした。美術館が完成した2002年から、16年後、77歳の安藤氏は「俺はまだまだ現役。むしろこれからだぞ」という想いがあったのではないでしょうか。外からも館内からも目に入る位置に置いたのは、そんな建築魂を伝えたかったからかもしれません。そのくらいこの大きな青りんごにはパワーがありました。

実際、安藤氏は、青りんごに次のようなメッセージを添えています。

サミュエル・ウルマンは「青春の詩」の中で、青春とは人生のある期間ではない、心のありようなのだ、と謳いました。

失敗を恐れることなく困難な現実に立ち向かう挑戦心。

どんな逆境にあろうとも、夢をあきらめない心の逞しさ。

身体・知性がいかに年を重ね、成熟しようとも、この内なる若さをさえ失わなければ、人は老いることなく生きられるというのです。

いつまでも輝きを失わない、永遠の青春へーー

目指すは甘く実った赤リンゴではない、未熟で酸っぱくとも明日への希望に満ち溢れた青りんごの精神です。 

安藤忠雄 

青りんごは、安藤氏の生き方そのものを表していたのですね。

 

ギャラリーには、数々のプロジェクトのスケッチや模型が展示されていますが、ここでは1つだけ紹介します。パリの「ブルス・ドゥ・コメルス」の木模型。1767年建立の穀物取引所を私設美術館に改修するプロジェクトです。模型の細かなつくり込みには目を瞠るものがありますが、なんといっても建物の内側につくられた円筒形のコンクリート空間に度肝を抜かれます。

 

ドーム型の屋根から降り注ぐ光が、このコンクリート空間にどんな陰影をつくり出すのだろうと想像しただけでため息が出てしまうほど。

本当ならこの美術館は2020年6月に開館予定でしたが、新型コロナウィルス感染症の影響で来年2021年の春に延期されたそうです。これはとても楽しみ。1日も早くコロナが終息し、笑顔でパリに出かけられる日が来ることを心から願っています。

Ando Gallery 兵庫県立美術館第2展示棟
観覧時間:10:00~18:00(入場は17:30まで)
休館日:月曜日(祝休日の場合は翌日)、年末年始(12月31日、1月1日)
観覧料: 無料