近年、都心部では駅前などの再開発が進み、高層ビルや大型複合ビルなどが相次いで完成しました。一方、バブル期に建てられた大量の中小規模のビルは、建て替えが進まず、平均築年数は30年を超えています。
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東京23区オフィスストック賃貸面積ベース(ザイマックス総研研究調査より)
このように都心には意外と築浅の中規模ビルが少ないのです。そこに着目した日本土地建物株式会社は、中規模オフィスブランド「REVZO(レブゾ)」を立ち上げ、2020年6月、その1号物件の賃貸オフィス「REVZO虎ノ門」(東京港区西新橋1丁目)がオープン。デザイン・設計を監修したのは、建築家の川島範久氏です。
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華奢なグリッドが端正なファサード。窓や外階段によって、向こう側まで視線が抜け、透け感があり軽やか。そこに緑が加わって、生き生きとしたオフィスを印象づけている(撮影:長谷川健太)
新型コロナウィルス感染症の流行によって、テレワークによる在宅勤務が実施され、オフィスの在り方が大きく変わろうとしている昨今、中規模オフィスに求められる機能とは何か? ここでは、その設計上の工夫を紹介しましょう。
1:働き方に合わせてレイアウトできるスケルトン貸し
一般的にオフィスは、内装や間仕切り壁、机などが整備された状態で借り、退去するときには原状回復します。しかし、働き方が多様化していくなかで、定型レイアウトや標準的なオフィス仕様がその会社のスタイルに合っているとは限らなくなり、このビルでは最低限の内装(床・壁)を整えてスケルトン貸しをしています。働き方に合わせて自由にレイアウトすることができ、退去時の原状回復の負担もほとんどありません。
昨今は、オフィスをフリーアドレス化し、社員人数分の座席をつくらない企業も出てきているので、レイアウトを自由にできるのは、これからのオフィスの必要条件といえますね。
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外国のようにペンキが剥がれ、配管むき出しになっている状態のスケルトンではなく、このままでも使おうと思えば使える最低限の内装が整備されたスケルトン。「日本型スケルトン貸しと言っています」と川島さん。(撮影:長谷川健太)
2:空調をサイドに寄せて、天井高さを確保
オフィスの空調といえば天井埋込カセットですが、このビルでは横吹き出しタイプを片側に寄せて設置しています。そうすることで天井を張らなくても頭上に設備がむき出しになることもなく、天井高さは3,690mm(梁下2,800mm)と開放的。
横吹き出しのエアコンで快適な温度環境を保てるかどうかは、CFDシミュレーションで検証済みとのこと。「中規模ビルの空間ボリュームだからできたこと」(川島さん)。
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解析ソフト:FlowDesigner
3:窓から窓へ風が抜ける快適なオフィス
コア(共用施設)の配置も中規模ビルならではの特徴があります。一般的に表側(正面側)に窓とオフィス空間を、裏側にコアを集めて配置しますが、ここではコアを分散して配置しています(図)。そうすることで共用部の無駄をはぶき、専有部は17m×17mのほぼ整形で、南北に窓を設けることができました。
バルコニーの窓は、オフィスでは珍しい引き違い窓が使われています。窓を開ければテラスに出られるし、室内を風が通り抜けていきます。また、照明がなくても自然光で過ごせる環境は、省エネにもなりますね。
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窓を開けると風が通り抜ける。カーテンが揺れる様子は住宅のよう(撮影:編集部)
4:外の空気が吸えるリフレッシュゾーン
気分転換に外の空気が吸えるようにと、各フロアの道路側一角にバルコニーを設けています。奥行2mのうち50cmに植栽帯をつくり、手すりのそばに立っても真下が見えないようにしています。視界を邪魔しないスイスのメーカー(https://www.jakob.com/ch-en/)の網も張って安全面にも配慮。
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8階バルコニーの眺望。緑越しに見る高層ビル群(撮影:編集部)
全フロアにあるバルコニーは避難用の屋外階段とつながっています。セキュリティがかかっているので、普段はそのフロアの共用部として使用できるそう。
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バルコニーと隣接する屋外階段(撮影:長谷川健太)
死角になっているので「社内恋愛はここで、笑」(川島さん)なんて提案もありますが、日常的に避難ルートにふれることで、万が一のときに混乱なく避難できる点もメリットといえます。
5:リラックスできる共有ラウンジ
昨今は、コワーキング(Coworkig)という新たなワーキングスタイルが注目されています。コワーキングとは、オープンなワークスペースで仕事をしながら、周囲とコミュニケーションを図ることで情報や知見を共有し、協業パートナーを見つけ、互いに貢献するという考え方(参考:コワーキング協同組合HP https://www.coworking.coop/about/coworking/)。
このビルにもテナント企業が自由に使える共有ラウンジがあります。虎ノ門という好立地・高賃料のエリアにおいて、ワンフロア全面を共有部に充てるのは、これまでの常識では考えられないことですが、「リラックスできる場」や「自由なコミュニケーションの場」が求められる時代。1社では創り出せない「場」があることは、十分付加価値といえるでしょう。
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最上階の共有ラウンジは、旭川の家具が置かれている。リラックスした雰囲気で交流が図れるようにと、住空間に近い内装でまとめている。自由に使えるオープンスペースは、これからの選ばれるオフィスの条件といえる(撮影:長谷川健太)
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窓際のテーブルは会津の漆塗り。テーブル間の仕切りには緑
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一枚板のテーブルに種類の違う椅子が並ぶ。ダイニングのような会議室(撮影:編集部)
6:緑あふれるオフィス街に
ハーバード大学が門から校舎までの道のりに樹木を植えているのは、そこを通る学生がリフレッシュすることで授業に集中できるようにするためだと聞いたことがあります。このビルでもエントランス廻りには植物がふんだんに植えられています。
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赤松やアガベなどオフィス街には見かけない植物が。
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エントランスロビー。道路には緑があふれ、壁には実際に現地で撮影した森の映像が流れている
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ベンチのそばにも植物を植えて、外の緑と連続させている。来客の緊張をほぐす効果も(撮影:編集部)
こんなビルが増えたらオフィス街の風景は変わるかもしれませんね。「オフィス空間は住宅に近づいてきている」と川島さん。REVZO虎ノ門には、家と仕事のあいだをつなぐような設えが満載でした。中規模オフィスには、まだまだ可能性がありそうです。
事業主:日本土地建物株式会社
設計:川島範久建築設計事務所
日本土地建物株式会社
構造:平岩構造計画
施工:株式会社安藤・間
造園:グリーンスペース